えみるさんがSound Horizon『Nein』のコミカライズについて熱く語る回

山田:こんばんは。寒い日が続きますが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。『山田えみる』の山田の方、山田です。

えみる:大変なことが起きたんだ。大騒ぎだ。どうも、『山田えみる』のえみるの方、えみるです。

山田:どうしたんですか。

えみる:Sound HorizonのNeinのコミカライズが面白い。

山田:あぁ、えみるさん、珍しくTwitterで盛り上がっていましたね。

えみる:正直舐めてた。だから、山田、今日の記事は君がさっき買ってきたやつについてではなくて、Sound Horizon(以下、サンホラという)について語りたいんだ。

山田:(さっき買ってきたやつを隠しながら)では、サンホラがわからない人にもある程度わかるようにお願いします(*´ω`*)

えみる:サンホラについてはまた回を設けて語るとして、まず、この記事を読むにあたって知っておいて欲しいことは3つ。

えみる:①サンホラとはミュージシャンである。

山田:進撃の巨人のアニメのOPでも話題になりましたよね(Linked Horizon名義だけど)

えみる:②サンホラのアルバムはストーリー仕立てになっている。
台詞も多い。ピンとこない人は、ミュージカルだと思ってもらえばいい。歌詞カードもすごいけど、それはまた別の機会に。

山田:ストーリー仕立ての曲といえば、BUMP OF CHICKENの『K』みたいな感じですよね(FLASH黄金期に想いを馳せながら)

えみる:③主要な物語(アルバム)は『第nの地平線』と呼ばれている。
なお、そのうち1番目から3番目までは同人盤でとんでもないプレミアがついてる。店舗でCDを見るのは、第四の地平線『Elysion』からだろうね。

山田:それで今回取り上げられたのは『Nein』ですか。

えみる:そう、それこそが第九の地平線『Nein』なんだ。Nein(ナイン)とはドイツ語で『否定』。いわゆるNoだ。この物語では、過去の物語を否定していく。第一の地平線から第七の地平線までの物語が、ある意志に基づいて否定されていくんだ(第八の地平線から眼を逸しながら)。

山田:『否定』ってどういうことです?

えみる:Neinの観測者は、『死』をなにより嫌う。そのためにあくまで『善意』で、それぞれの箱庭の物語に介入して『死』を回避していくんだ。既存の物語を見慣れてしまっている我々とNeinの主人公は、その介入により歪んでしまった結末を見せられることになる。

山田:つまり二次創作?

えみる:そう!

山田:しかし死が回避できるのであれば、それはハッピーなんじゃないですか?

えみる:それをハッピーと捉えるかどうかは非常に難しいし、それはこの物語を貫くテーマでもある。少なくともオリジナルの物語で必死に生きた者たちの意志が否定されることになるからね。でも、わたしはそう思いつつも、いくつかの地平線の否定(つまりNeinで描かれた世界)を、『否定』できない(第四とか第七とか)。
話すと長くなるから、コミカライズの話に行こう。

山田:昨日Kindleで発売されたんですよね。

えみる:正直、コミカライズには期待をしていなかったんだ。でもサンホラーの義務として、Kindleを買ってみた。するととんでもなかった。愛で溢れていたんだ。

えみる:このコミカライズの一巻は、4つの物語で構成されている。
①檻の中の箱庭:プロローグ。観測者が自我に目覚める。
②名もなき女の詩:第一の地平線『Chronicle』『Chronicle2nd』の否定。
③食物が連なる世界:第二の地平線『Thanatos』の否定。
④言えなかった言の葉:第三の地平線『Lost』の否定。
※ちなみにタイトルが一文字ずつ増えているのにも意味がある。

山田:まさか全部やるんじゃないでしょうね!?

えみる:全部やりたいけど、ここは②だけ取り上げたい。なにせ、否定される前と、されたあとの両方をフォローしなくちゃいけないからね。
【歴史ハ改竄ヲ赦サナイ】

えみる:第一の地平線を構成するある章が否定されたんだ。
そのもともとの物語は――。
①娘ルーナと、詩人エンディミオは恋仲である。
②ブリタニア王国の女王にエンディミオは招かれ、その美貌を歌うように命じられる。
③しかしエンディミオは娘を想い、女王の意に反した詩を歌う。
④幽閉されたエンディミオ。しかし彼の詩は、牢番から世の中に『名もなき詩』として伝わる。
⑤エンディミオを探す旅に出たルーナは、その過酷さゆえに視力さえ失う。
⑥挫けそうになるルーナだったが、やがて切なくも懐かしき調べ『名もなき詩』に出逢い、『エンディミオの死』を知る。
⑦盲目の詩人ルーナは、エンディミオの名を受け継ぎ、詩を歌う。

山田:すると、Neinで否定された結果生まれるのは、そのエンディミオが死なないお話? ハッピーエンドじゃないですか。

えみる:どうだろうね。まず、Neinの観測者が『エンディミオの死』を否定するためには、死のきっかけとなった女王陛下との件を否定しなければならない。
――然れど... 然れど... 唯... 一輪...
この世の... 常ならざる... 薔薇が在る!
冬枯(ふゆが)れの世界を 、常春(とこはる)が如くに、

山田:空気を読んだ立ち振る舞い( ˘ω˘)

えみる:エンディミオはここで嘘を歌ってでも、生きてルーナのもとに帰りたかった。正史では詩人に殉じた結果だけれど、猫に魅入られた彼は、己の中の詩人を殺したわけだ。些細なきっかけ、でもここから地平線が軋み始める。

えみる:エンディミオを探して旅に出たルーナは、倒れていたところをあるパン屋に拾われる。そして、騒がしくも楽しい日々の中で、挫ける。

えみる:なぜ、ここで挫けてしまうのか。否定された地平線は何がちがうのか。それは、『エンディミオの死』が否定されたということそれ自体にある。

山田:どういうことです? エンディミオが生きてる世界なんでしょう?

えみる:正史を思い出してほしいんだ。
③しかしエンディミオは娘を想い、女王の意に反した詩を歌う。
④幽閉されたエンディミオ。しかし彼の詩は、牢番から世の中に『名もなき詩』として伝わる。
⑤エンディミオを探す旅に出たルーナは、その過酷さゆえに視力さえ失う。
⑥挫けそうになるルーナだったが、やがて切なくも懐かしき調べ『名もなき詩』に出逢い、『エンディミオの死』を知る。

山田:そうか。挫けそうになったルーナは『名もなき詩』に出逢わなければ、立ち直れない。

えみる:ルーナに再び逢うために、エンディミオは自身の中の詩人を殺して、嘘を歌った。その結果、投獄されず、彼は逆にルーナを探す旅に出る。当然、牢番から『名もなき詩』が広まることもなく、挫けそうなルーナはその詩に出逢うことはない。

山田:エンディミオの想いとは裏腹に、物語が進んでいくんですね。

えみる:挫けたルーナは、パン屋の主人と子をなす。これがこの物語の終着点。このページでは、正史における終着点『盲目の詩人ルーナ』の面影が描かれているね。

山田:あれ、わりと幸せそうな終わり方じゃない?

えみる:と、思うじゃん?

山田:( ˘ω˘)

えみる:コンサートだとエンディミオの服装はわりとしっかりしていたんだけど、このページを見て、わたしは愕然としたんだ。この世界では、エンディミオが正史のルーナに匹敵する旅を続けてきたんだって。楽器もぼろぼろだよね、女王の前で翻意したとき、彼の中の詩人は本当に死んでしまったんだ。そこまでして彼女を想って嘘を歌った結果、こうしてパン屋で幸せそうな彼女を見つけてしまう。

山田:これが、『必ずしも死の否定はハッピーエンドじゃない』ってこと?

えみる:それもある。でも盲目の詩人ルーナ・バラッドは今後の歴史(Chronicle)で重要な立ち位置になるんだ。ここから先はこのコミカライズの描写を踏まえたわたしの解釈だけど、たぶん、盲目の詩人ルーナが生まれなかったことによって、ブリタニアの女王が打倒されず、ある姫君が立ち上がれないことで、ある英雄が正史どおり活躍するきっかけを与えられず、薔薇戦争の末に世界は混迷を極める。

山田:ピタゴラスイッチか!

えみる:まぁ、正史でも混迷を極めるんだけどね……。

えみる:はい。随分長くなってしまいました。これが第一の地平線の否定の物語です。サンホラをよく知らない人にとっては、Neinは二次創作だからハードルは高いかもしれないけど、逆に言えば、第七の地平線までを俯瞰できるということ。ここから入って、気に入った地平線に飛び込むのも、わたしはアリだと思います(*´ω`*)

山田:もともとこの記事を書く予定はなかったんですが、ほんとに長くなりましたね。えみるさんの創作について語られるのはいつになることやら……。

えみる:(まぁ、いいじゃん)