山田えみるがなんか呟くブログ

オリジナル物書きが思いついたことをつぶやいていきます。

【第七回一週間小説コンテスト】『星に願いを。』

f:id:aimiele:20170902104800j:plain

こんばんは、執筆担当えみるです。

リンメイ氏主催のpixivオリジナル小説クラスタ(オリ小クラスタ)企画『第七回一週間小説コンテスト』に参加をしました。

 

『第7回1週間小説コンテスト』のテーマは『虫』

3,000文字でポストアポカリプスSF短編に仕上げてみました。

隠し味は、人類のいなくなってしまった理由です。


「なぁ、人類ってどうしていなくなったんだっけ」
ヒトのいなくなった世界で、何億世代もかけて塔を作り続ける自律機械の虫たちの物語です。

 

ちなみに『第六回一週間小説コンテスト』では、同じタイトル『星に願いを。』で参加をしました。たぶん次回もこのタイトルでSFを書くことでしょう。願われる星のことを思うとこころが痛みます。

終末世界へのタイムトラベルツアー中に旅行代理店が倒産した物語です。

もうみんな忘れていますよね、この事件。

『続きを読む』から本文を読むことができます。

pixivでもこちらでも構わないので、感想等いただければ嬉しいです(*´ω`*)

では、どうぞ。

 

 「なぁ、人類ってどうしていなくなったんだっけ」
 「なんか、『きのこ』と『たけのこ』が争ったかららしいよ」

 

 『星に願いを』

 

 「なんじゃそりゃ」
 もうずっとこのやり取りを繰り返しているが、友人の回答はいつもこんな感じで、お互いによく飽きないと思う。
 ぼくたちはいつもここで休憩を取ることにしている。ここから見えるのは寂寥とした砂漠。大きな夕日が地平線にゆっくりと沈もうとしている。砂漠を横切るように、細長い影が横たわっていた。
 ぼくはここで砂漠を見下ろしながら、友人と他愛もない話をするのが好きだった。友人はいわば本の虫というやつで、遺跡から採掘された本を無断で拝借しては、右側第二十三番脚と左側六番脚で本を開いて、五番から十二番までの眼を駆使してそれを読んでいる。
 「ふむふむ、ふーむふーむ」
 「なんて書いてあるんだ?」
 「ぜんぜんわからん」
 下部腕を総動員してネットワーク端末のキーを叩いている。このあいだの太陽フレアの影響でネットワーク網がだいぶやられてしまったようだけど、実際どうなのやら。
 「あ、ヒットした。なになに、『健康になるには入浴するとよい』?」
 「そんなわけないだろ。めっちゃ呪術書っぽいぞそれ」
 「そんなこと言われても」
 友人は困ったように二十五番脚で七番頭をかく。
 「おっと、そろそろ休憩時間終わりだ」
 「行きますか」
 「その前にその本ちゃんと返しておけよ。機祷師にまた怒られるぞ」
 ぼくたちは1729本の脚をかしゃかしゃと動かしながら、塔を登っていく。

 

 ※

 

 「なぁ、人類ってどうしていなくなったんだっけ」
 「なんか、『地球は青かった』かららしいよ」
 「未熟だったってことか」
 ぼくたちの造り手、ヒトという種はもうこの星にはいない。ぼくたちを造りあげたのちに、外宇宙へ旅立ってしまったのだという。
 ぼくたちに課せられた使命――というか、造られた目的は、『再建』。汚染された大地を食べて浄化し、大気を濾し、廃墟を土に返すこと。この惑星全体に対するその作業が終わった頃に、ぼくは女王から生み出され、今度はヒトの帰るときのために塔を組み立て、文明の器を用意する作業に従事している。
 ヒトという種はいまごろどこをほっつきあるいているのだろう。
 「なぁ、人類っていつ帰ってくるんだっけ」
 「なんか、5億7600万年くらいかかるんだってさ」
 外宇宙に飛び去っていったヒトたち。ほぼ光速度で移動している彼らにとって1日は、この惑星の400年に相当するのだという。ウラシマ効果というやつさ、と友人はすべての頭部でドヤ顔していたが、本当はどこまで理解しているかわからない。
 さて、ぼくたちは機械である。
 ぼくたちはヒトにより造られたモノである。
 けれども、ヒトについてはわからないことだらけだった。目的のために必要な最低限の知識と機能、それにイレギュラーに対応するための知能が与えられているだけで、文明や文化の文脈を受け継いでいるわけではないからだ。
 ヒトの科学がどれほど進んでいたのか、ぼくたちはまだその戸口にすら立てていない。ぼくは、何故ぼくが動いているのかわからない。何故ぼくが考えることができるのか、まったく理解が出来ない。
 数千年前にそんなことを言ったら、友人は笑っていた。
 「でも、ヒトもそういうの、ついにわからなかったらしいよ。いまはどうかわからないけど、遺跡に残っている限りは、彼らは彼らを構成する原子を構成する素粒子を構成する粒子の正体がわからなかったらしいし」
 「マジか。しかもぼくたちみたいな『造られた役割』もないんだろ?」
 「だから『産めよ、殖えよ、地に満ちよ』って指示をでっちあげたのさ」
 「『かみさま』ってやつか」
 友人は生まれてこの方、いろいろなヒトの記した本を読んでいる。暇なときは作業中であってもネットワークにアクセスし、失われた百科事典『W』に接続しているという。さっきも蟻は高いところから落ちても、空気抵抗と重力加速度が相殺されるから死ぬことはないなんてどうでもいい雑学をドヤ顔で語られた。っていうか、蟻、もうこの星にいないし。

 

 ※

 

 「なぁ、人類ってどうしていなくなったんだっけ」
 「なんか、あらゆる情報を『ヤバい』『ウケる』『それな』で表現できるようになったらしくて、頭を冷やすために宇宙に飛び出したらしいよ」
 「なんだそれ。ヤバい」
 「それな」
 今回の作業も無事に終わり、天を衝く塔の建設はちょびっとだけ進んだ。ぼくたちの行うこの惑星開発(アスタータ)は、使えるリソースの少ない中、極めて合理的な計算のもとで行われる。
 ヒトが帰還した時の文明の拠点となるこの塔を、ぼくたちはもう何万年もかけて造っている。当然、地上から資材を持ち上げているわけではない。エネルギーの無駄遣いだ。ぼくたちの使命はこの塔を完成させることが目的ではあるけれど、そのあとの人類のことを考えたら、エネルギーを枯渇させるわけにはいかない。
 じゃあ、どうやって塔を高くしていくのかって?
 いるじゃないか。塔の成長部分に、たくさんの無機物たちが。
 「明日はとうとうぼくたちだ」
 「そうだね。いままでありがとう」
 今日、ぼくたちはぼくたちの前世代の者たちを、塔として組み込んだ。毎日こうして古い世代は塔そのものとなり、地上からは女王から生成された新たな世代が毎日塔を駆け上がっている。

 

 ※

 

 「なぁ、人類ってどうしていなくなったんだっけ」
 「なんか、寂しかったんだって」
 最期の晩も、ぼくたちはいつものように過ごしていた。友人が読んでいる本は、よくわからない詩集だ。そういう気分なのだろうか。塔のてっぺんから見上げる満月はまだ遠く、永遠に手が届かないもののように思えた。ぼくたちのこの身体は、明日、ほんの数センチのカサ増しのために捧げられる。
 「なぁ、ぼくたちはもう誰もヒトを直接見たことがないだろ。話をしたこともない。すべては伝えて聞いている情報だけだ」
 ぼくの話を聴く友人の眼は蒼い月明かりを受けて、わずかに滲んでいるように見えた。
 「ぼくはいつも考えてきたんだ。もしぼくたちの受けている指示にバグがあって、いつかヒトが帰ってくることも、塔を建てるという使命も、みんながみんな、意味のないことだったらどうしようって。『かみさま』にしちゃってるんじゃいかって」
 こんなことを考えてしまうのは、どうかしてしまっているのかもしれない。ほかのみんなはもう何億世代と与えられたことを淡々とこなしていったというのに。いつかヒトが帰ってくるときのために。いつか来る救いのために。救いってなんだ――、虫酸が走る。ぼくたちは救われなくてはならない存在なのか。
 「そう言って、昔、機祷師に食って掛かって怒られていたよね」
 「うん、成長してない」
 まだ地上付近にいたころの話だ。あのころ見上げていた塔は、とんでもなく高かった。てっぺん付近で作業するどころか、そもそもあそこまでたどり着けるかどうかを心配するほどだった。あれからかなりの時間が経って、この塔はどれだけ伸びたのだろう。どこまで伸ばすのだろう。何故、伸ばすのだろう。やっぱり夜はダメだ、いろいろ考えてしまう。
 「そろそろ寝よう。明日は『役割』の総仕上げだ」
 友人が本を閉じた。そうだ、こういうときは早く眠ってしまうに限る。からだを丸めようとしたとき、夜空を駆けるひとすじの流れ星が見えた。複雑な軌道を描き、さまざまな色に瞬くその光は、すぐにフッと視界から消えて夜闇に溶け込んだ。
 「なぁ、いまのって……」
 「流れ星、いや、ちがう。ちがうな。流れ星はもっとパーって動くもんな」
 友人にも見えたらしい。生まれてこの方あんな軌道をする流れ星なんて見たことがない。ヒトが帰ってくるのなら、聞いてみたいことがたくさんあった。ぼくたちは明日、この塔に埋め込まれて自我を失ってしまうけれど――。
 「ひとつだけ方法がある」
 友人はすべての頭部でドヤ顔をした。
 「蟻はどんな高いところから落ちても死なない」

 

 ※

 

 「なぁ、人類ってどうしていなくなったんだっけ」
 「どこまで出来るか試してみたくなったんだよ」
 「それな」
 そうして、ぼくたちは塔から飛び降りた。